先生はそのままスマホを持って離れ、篁くんは言われた通りバスへと乗り込もうとする。
だけど、
「ま、待って!」
私は制服の裾を掴んで、篁くんを呼び止めた。
「何の話だったの?」
「は?」
「私を連れ出した理由。……話があったから、なんでしょ?」
ベンチに座って寝てしまうまでは、何となく聞きたくないと思っていた。
でも、勝手に眠りこけてしまって。
起きるまで待たせてしまったのは、さすがに申し訳なかったと思う……から。
せめて話くらいは聞いてあげようと、裾を掴んだまま、篁くんの顔をじっと見る。
すると、
「別に話とかないけど」
「え……?」
「あなた達、何してるの!早く乗りなさい!」
無表情で言った篁くんの言葉に、驚いた声を上げた私の声を、バスの乗降口から顔を出した山本先生が遮った。
慌ててバスに乗り込む私達。
何もなかったように篁くんは自分の座席へと向かうけど、中途半端になった話に私はモヤモヤする。
だって、私が眠ってしまった時間は数分とか、そんなところじゃない。
それなのに、話も用もないのに、起きるまでずっとそばで待っていたの……?