《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

「うん、ありがとうソニャちゃん。ソニャちゃんがいてくれてよかった…」

「もーー！　アタシが男だったらアンタを大事に仕舞っとくっての！」

「わたしもソニャちゃん大好き！」

　抱き着く様に凭れると、ソニャはスズランの頭を撫で回した。

「可愛いヤツめ！」

「もう、ソニャちゃんったら！」


　そうして早々に仕事を切り上げるとスズランは早めに夕食を取り、急いで寝支度を整える。自室のベッドの上にはお気に入りの枕と羽入り座蒲団(クッション)を積み上げた。夕食時にユージーンが煎れてくれた珈琲(コーヒー)ミルクを二杯も飲んだので眠気対策に抜けは目ない。

「───よし、今日は読書の日！」

　スズランはソニャに借りた恋愛小説を手に意気込む。ベッドに腰を据えていざ頁(ページ)をめくろうとした時、部屋の扉が控えめに叩かれた。

「俺だけど。……今日は髪やらなくていいのか？」

　扉越しにセィシェルの声が聞こえてくる。

「セィシェル……今日は自分でしたから平気なの！」

「そっか。あのさ…。夕方の事だけど俺、お前の事…」

「ゆ、夕方の事なら気にしてないよ…！　あれは親愛の印とかあいさつみたいなものだってソニャちゃんから教わったし！　だからセィシェルも気にしないでね？」