《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

 罪悪感と一緒に小さく疎外感が芽生え始める。自分だけが一方的に無視を決め込んでいる為、非常に感じの悪い嫌な定員だと思われているに違いない。
 スズランは鼻の頭まで湯船に身を沈め、お湯の中で長く息を吐いた。吐き出された空気は気泡となりぶくぶくと水面で弾ける。心の中のもやもやもこの泡の様に弾けてしまえば良いのに……そんな事を考えていたらすっかりとのぼせてしまった。

「なんだかすっきりしないなあ」

 浴室を出て居間に戻ると、長椅子(カウチ)に座り神妙な面持ちで本と向き合うセィシェルが目に入る。スズランに気づくと適当に本を投げ置いた。

「セィシェル! 今休憩?」

「長風呂しすぎ…。のぼせて林檎みてぇになってんじゃん」

「ちょっと考え事してたの!」

「……あっそ。髪、乾かしてやるから来いよ」

「セィシェルだって疲れてるのに…、でもありがとう」

「別に…」

 セィシェルが吹かせる微風は火照った身体にとても心地よく、スズランのもやもやと燻る心をほんの少し軽くした。

「ねえ。さっき何の本読んでたの?」

「あー、なんかソニャの奴がお前に貸すってよ。お勧めの小説だとか…。俺も読めとか言われてちらっと見たけど訳わかんねぇ」

 ソニャは小説──。主に恋愛小説を読むのが趣味である。毎回新作を読み終えると半ば強制的に勧めてくる。