《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

 スズランの押しに負けたのかセィシェルは顔を背けて小声で呟く。

「っ…そこまで言うなら分かった。絶対あいつに近づかないって約束しろよ…」

「っじゃあ、お店のお手伝いはしてもいいの?」

「……駄目って言っても無駄なんだろ?」

「!! っわたし、ちゃんと約束する! ありがとうセィシェル、お店のお手伝いたくさん頑張るね!!」

 スズランは嬉しさのあまり、腕を組んで渋い顔をしているセィシェルに横から抱きついた。

「ぅわっ!! いきなりくっつくなよ!」

「むぅ、そんなに嫌がらなくたって…!」

 慌てて離れていくセィシェルに小さく頬を膨らませた。

「い、嫌な訳じゃあねぇし……。ったく、何だかんだ俺も親父の事言えないよな」

 と何やらブツブツと一人ごちている。ユージーンもセィシェルも、大概の事はスズランを優先する程に甘かった。会話が途切れた所でユージーンが厨房から顔を出す。

「二人とももう喧嘩は済んだのかい?」

「マスター!」

「は? 喧嘩なんてしてねぇよ!」

「そうか? だったらさっさと働く! お客さんを待たせるんじゃあないぞ。ほらセィシェル、奥のテーブルにこの料理運んでくれ!」