《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

「…っ!」

 それ以上何も反論をしない男の態度に、もやもやが増す。それでも一応は客だ。先程言いかけの注文があった筈だと声を上げた。

「……でもセィシェル、注文はどうするの?」

 一瞬。男と目が合いそうになるも慌てて逸らしてしまう。

「……じゃあ、それ食べたら帰ってくれ」

 乱暴にそう言い捨てると、セィシェルはスズランの腕を強引に引いて早足でカウンターの奥に移動した。

「まってよ……セィシェル…、ねえ…!」

「……」

「セィシェルってば!!」

 掴まれていた腕を軽く振り払うと、セィシェルは漸く返事をした。

「何だよ…!」

「あのライアって人と昔何かあったの? わたしあの人に何もされてないよ? 何でいきなり帰れなんて…」

「うるせぇな! 俺はあんな奴知らねえ」

 セィシェルは視線を合わせずにそう言い捨てたが、流石にスズランも黙ってはいられなかった。

「嘘! わたしが小さい頃に何かあったみたいに話してたもん!! 何があったのか教えてよ…」

「知らねえって。覚えてねーならそれでいいだろ! もうあいつの話は終わりだ」

「どうして?」

「どうしてもだ!! あと、当分の間スズは店に顔出すのは禁止だ!」