《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

「やっぱり……僕に、戻る場所なんか──」

　停車場の地(ホーム)に溢れかえる民。
　ラインアーサが一足先にホームへと降り立つと心地の良いやわらかな風に包まれた。
　澄んだ秋空が橙色から淡く夕闇に染められ、やわらかい風が頬を、髪を優しく撫ぜてゆく。
　一息付きながら背伸びをしたラインアーサは、愉(たの)しげに言葉を返す。

「行こう、みんな待ってる」

　少し気まずそうな、それでいて複雑な表情のまま、なかなか列車(トラン)から降りないハリ。
　だが次の瞬間、勢い余って停車場のホームに飛び出して来た。

「っな…！」

「ぅわ…？　大丈夫かハリ！？」

　何とか転倒せず、体制を整えたハリだがすぐ様振り向き声を上げる。

「ちょっと…、押したでしょ？　僕の背中……」

　その視線の先には、悪戯が成功した小さな子供のような笑顔を放つジュリアンが得意げに立っていた。

「手伝っただけだって！　ハリがなかなか降りてこないからさぁ」

「君って人は……そもそもどうやって僕の背後に回り込んだわけ…？」

　ぶつぶつとボヤくハリに、わあわあと賑やかなジュリアン。それを横目にラインアーサは目を細めた。

　そこへ──、一人の少女が歩み寄った。
　ラインアーサの唯一無二であり、最愛のスズランだ。