《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

 「誰がそんな酷い事を」、と付け加えラインアーサはどうにも緩みそうになる顔を引き締める。

「その顔、信用出来ないな」

「それでもいいけど。まあ、シュサイラスアの停車場に着いたら今度こそ揉みくちゃにされると思うから覚悟しといて」

「は? だから通用口を使えば…」

「何も悪い事してないのに? 其れ処かハリはこの世界を救った一人なんだ。そんな英雄を前にしてシュサイラスアの民たちが黙っていられるとは思わないけどね」

「はあ……全く。それは君たちもでしょ? 君って人は本当に…」

 また一つため息を吐いたハリだが、今度は気の抜けた表情で笑みを零した。


「──さあ、帰ろう」

 誰の声でもないその言葉が、ハリの胸の奥にそっと灯る。少しずつ、でも確かに。
 世界が戻ってくる音がした。


 ───王都の停車場へ滑り込む様に入ってゆく列車(トラン)
 変わらず別れの場所であり、出発の場所でもあるこの場所だが、本日は一際大きな賑わいを見せている。

 列車(トラン)の扉が開いた瞬間、ホームにいくつもの声が押し寄せた。

「アーサ様が戻ってきた!」「二人とも本物だ!!」「ハリ様だ……!」「英雄が還ってきたんだ!」

 歓声、拍手、泣き声。様々な声で停車場の空気が震える。けれど、ハリは一歩も動けなかった。まるでその場に縫いとめられたみたいに。