そう声をかけるとスズランは見る見るうちに真っ赤になり、頬を膨らませて睨んでくる。

「……むぅ」

「ん? どうして膨れてるんだ?」

「……だって、毎朝おんなじ事言うから。わたし、もう平気だよ? それに、起こす時はもっと…、普通に起こしてってお願いしてるのに…」

「俺に起こされるの、嫌?」

 少し意地悪な言い方をしてみる。

「い、嫌なわけ…っないけど…」

 ぷくりとした真っ赤な頬のまま視線を逸らすスズランに、もう一度極上の笑みを向けた。

「なら問題ない。お早う、スズラン」

「うぅ、おはよう。ライア…」

 毎朝こうやってスズランを起こすのがラインアーサの日課となった。「もう平気」だと何度告げられても、当分の間は確かめずにはいられないだろう。
 長い夢の淵から戻った彼女に、これまでの比では無い位より過保護になった。過剰とも思われるあまりの溺愛ぶりに周囲からは勿論、スズラン本人にも若干呆れられる始末。しかしあの色の無い灰色の日々にはもう二度と戻りたくないのだ。誰に何と言われようと。


 ───一日で太陽が一番高く昇る時刻。
 如何に多忙でもラインアーサは必ずスズランとの二人だけの時間を取る。これも大切な日課だ。