《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

「俺の名前はライア！　君は？　良かったら君の仕事が終わった後一緒に…っぐあっ！？」

　が、全てを言い終える前に急に身を屈めて脇を擦っている。すると、男の後ろから良く耳に馴染んだ不機嫌そうな声がした。

「お客さん…、注文は以上ですか？」

　そこには不機嫌を通り越し、怒りを隠そうともしないセィシェルが拳を握って立っていた。そして素早く反対側の手でスズランを引っ張ると背中側へと追いやられた。

「なっ…」

　スズランが文句を言うより先に男が声を荒らげた。

「ちょっと、何するんだよおにーさん。今の結構痛かったんだけど？」

　セィシェルの影から覗き見ると、男は脇腹を擦りながらセィシェルを睨みつけていた。
　状況を察するに、セィシェルが目の前の男の脇腹を攻撃したのだろう。
　何も今回が初めてではなかった。多少過保護な所があるセィシェルだが、いくらなんでもこうやって毎度の事客と揉めるのはどうかと思うのだが。

「セィシェル…！　わたし注文(オーダー)くらいちゃんと取れるよ？　もう子供じゃないっていつも言ってるのに！」

「今日はいい……スズはもう上がるか裏の片付けに回っとけ。また忙しい時に料理とか運んでもらうから」