────ライアは祝祭の日を境に酒場に現れる様になった。
今になって思えばその日、森で出会った〝警備隊員〟も〝ライア〟も良く良く冷静な頭で考えれば直ぐに答えは見つかっただろうに。しかしあの時のスズランにはその二つの事柄を紐付けると言った考えすら思い浮かばなかったのだ。
「すいませーん! 麦酒もう一つ!」
祝祭初日で混み合う店内。
賑わう喧騒の中よく通る声に、スズランは振り向いた。
「あ、はい!」
旅人……にしては小綺麗な身なりの男が爽やかな笑顔で軽く手を上げている。狭いテーブルの上にはまだ食べかけの料理と空いたグラスが二人分。一人は席を外しているのか二人がけの長椅子には声を上げた男のみが座っていた。
どうやら追加の注文らしく、スズランは仕事をこなそうと張り切って男の元へ向かった。
「あと野菜たっぷりの卵のヤツも追加……って君……」
何気無くスズランを見上げてきた所で互いの視線がぶつかり合う。
───ほんの一瞬だったと思うが、とても長い時間見つめ合っていた様な錯覚に陥った。
吸い込まれそうな程に深い青。その奥に何かを秘めていると思わせる瞳がスズランを射抜く。



