《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

　初恋という甘酸っぱい響きにほんの少し、嫉妬してしまった。

「ふふ」

「な、何で笑うの？」

「いや……」

「…？」

　子供っぽいと思われたのは少し不服だが、それでも知りたいのだ。ライアは何処か嬉しそうにスズランの手を引くと石橋を渡り、側面の川岸に降りた。転ばない様にと支えてくれる暖かい掌に胸の鼓動が早くなる。

「ほら、ちょうど此処だ」

「っ…ここって…！」

　目の前を清らかに流れる小川のせせらぎは視覚、聴覚共に安らぎを与えてくれる。更に川岸一面には可愛らしい花達がそよぐ風で気持ちよさそうに揺れている。
　その美しい光景全てが、スズランの見る〝あの夢〟の場面と一致する。

「あの日……十一年前。母が亡くなった日。ちょうど俺はこの場所に座り込んで打ちひしがれていたんだ」

「ライアの…、お母様が、、亡くなった日…」

　一転して重い話題なのかと身構えてしまうも、ライアは表情を柔らかく緩めたまま続けた。

「母は元々体が丈夫じゃあなかったんだけど、先の内乱で様々な心労が重なってね…俺は俺で少し微妙な時期でもあった」

「微妙な時期？」

　間を置いて、ライアは少し照れくさそうに昔を懐かしみながら話を始める。