《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

 穏やかだがほんの少しぎこちなさが残る空気。それを一新させたのはやはりライアだった。

「……スズランは俺と初めて会った日の事覚えてる?」

 問いかけに、はっと顔を上げて即答する。あの日はとんでもなく失礼な間違いをしてしまったのだ。今更でも謝りたい。

「もちろん…! ライアが帰国した時のお祭りの日にここの森で」

「そうか、そうだよな…」

 だが今度はライアの声に僅かな翳りを感じた。

「わたし勝手にライアのこと警備隊の人と勘違いしちゃって、本当にごめんなさい!」

「俺の方こそごめん…、でも懐かしいな。まだそんなに経ってないのに」

 こちらが先に勘違いをしたのだから謝らなくてもいいのに。その上、瞳が合うとライアはふわりと破顔しスズランの胸を高鳴らせた。

「っ…わたし、あの時はライアとこんなふうになるなんて思ってなかった…」

「……俺は…。此処でスズランと会った時、運命なのかと思ったよ」

 先程とは一変して、何時になく真面目な眼差しで見つめられる。

「運命…?」

「果たせなかった約束を、今度こそ守る為の」

「約束って? それに、ライアはいつからわたしのことを知っているの?」