《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

 切なる祈りが通じたのか否かスズランの睫毛が小さく震え、瞼が薄らと持ち上がっていく。

「…!」

 だがその光景はあまりにも酷だった。
 ぼんやりと天井を見つめるスズラン。
 何も映さない透き通った硝子玉。こそに本来の輝きは無い。どうしたらあの美しく淡い虹色が宿るのだろう。
 息を飲むが早いか、無意識に両手に力を込めた。

「……て…」

「え?」

「……どうして?」

 小さな唇が言葉を紡ぐ。同時に澄んだ瞳の目尻から透明な雫がとめどなく零れ落ちてゆく。そんなスズランの様子にラインアーサの心は激しく揺さぶられた。

「っ…スズラン…、今行くから……」

 動揺を押さえ込み、集中して気力を高める。より強くスズランの手を握り、ゆっくりと瞳を閉じた。



 ───落ちてゆく。

 どこまでも、底の無い深い闇に落ちてゆく。何度経験してもなかなか慣れない感覚だ。今回はかなり深く落ち沈む。
 一面真っ暗闇でも不思議と不快感はない。逆に心地良さが全身を包み、気を確かに持たなければ二度と此処から出られないだろう。

 漸く、闇の中にぽつりと見知った光景が浮かび上がる。