《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

 ライアの身に危機が迫る最中、漸く気がつくなんて。
 つい周りと、エリィやヴァレンシアと自分を比べてしまっていた。それは自分に自信がないから逃げていただけに過ぎない。想う事自体は自由な筈、もっと自分の気持ちを大切にすれば良かったのだ。
 たとえ身分違いの想いでもいい。届かなくてもかまわない。この気持ちを誤魔化して閉じ込めたり、無かったことなどにしたくない。
 ただライアの無事を願う。

(もう逃げないから…、ちゃんと自分の気持ちと向き合うから……お願い無事でいて、ライア…!)

 勝手な勘違いをしておきながら夜の森で出会った警備隊員がライアだったら……などと願った事もあった。彼は帰国を祝う祝祭(フェスト)の日を境に酒場(バル)に現れる様になったのだ。今になって思えばその日、森で出会った〝警備隊員〟も〝ライア〟も冷静な頭で考えれば直ぐに答えは見つかっただろう。しかしあの時はその二つの事柄を紐付けると言った考えすら思い浮かばなかったのだ。
 初めの頃こそからかわれたりもしたが、些細な怪我や身に迫る危機。その他にも幾度となくスズランを気遣ってくれた。そして守りたいと言ってくれたのだ。もうそれだけで充分過ぎるではないか。
 しかし、実際に身代わりとなってあの真っ黒で恐ろしい空間の裂け目に捕らわれてゆくライアを見た時、心臓が凍り付いた。