《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

 今は祈る事くらいしか出来ない。スズランは両掌を合わせて(そら)に祈った。
 もうすぐ夜明けなのだろう。しかし雨雲はそれを拒む様に厚く垂れ込んでいる。
 セィシェルが退室した後、スズランはライアが贈ってくれたローブをもう一度真っ直ぐに見つめた。自然と溢れ出る涙を手の甲で思い切り拭う。

「今何が起きてて、どうしたら一番いいのか考えなくちゃ」

 泣いてる場合では無いのだと顔を上げる。
 拭ったそばから再度涙が溢れ出すが、もう一度拭う。何度も何度も。そのうちに目尻と頬が擦れて腫れてくる。それでもスズランは涙を拭い、考え続けた。
 一つ一つ、思い出すかの様に。

 ライアはこの国、シュサイラスア大国の王子だ。何故かこの酒場(バル)に何度も通ってくれていた常連客でもあり、ユージーンとは初めから知り合いだったらしい。
 初めてライアと出会ったのも酒場(バル)の店内、視線がかち合ったのはほんの一瞬。とても長く見つめ合っていた様な錯覚に陥った。一目惚れ……だった───。
 あの吸い込まれそうな程に深い青、美しい瑠璃色(るりいろ)の瞳に一撃で心を射抜かれたのだ。

「わたし。初めて会ったあの時から、ライアを一目見たときからずっと……ずっと好きなんだ。なのにどうしてもっと素直になれなかったの…?」