《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

　普段は温和で無口だが、この手合いの人種を本気で怒らせてはいけない。そう本能が告げている。セィシェルは短く息を吐いた。

「はぁ……確かに、言い過ぎたかも。悪かった…」

「いいもん。セィシェルのばか！」

　ユージーンの陰に隠れ、セィシェルに向かって小さく舌を出す。

「っ馬鹿ってお前なぁ！　せっかく謝ってんのに、俺はただ…」

「二人ともやめないか！　ほらスズも、そんなに気に病む必要はないよ。ただね、あんまり急いで大人にならなくても良いのだよ？　スズが元気に笑っていてくれるだけで十分なんだ。セィシェルもそうだろう？」

　ユージーンは諭す様にスズランの頭を優しく撫でると、にこりと微笑んだ。

「そうなの？」

「…っ！　俺は……いや、俺も親父もそうだ。お前が無理して恩返しとか言うからっ！　俺はそんなの別に……いらねぇし」

「セィシェル、そうじゃあ無い。人一倍スズの事を心配して居るのは何処の誰だったかな？」

「っうるせぇ！　もう仕事に戻る」

　セィシェルは何故か怒って顔を背けると足早に厨房へ戻って行った。

「全く…。慌ただしい息子ですまないね。しかしあの口の悪さは俺にも覚えがあるから何とも言えないよ、はは…」