《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

「そう。風の国、シュサイラスア大国」

「しゅさい…? えっと、とってもおおきい国なの?」

「そうだよ。もう少しで王都に着くからね」

「うん…」
 
 大国と言っても、リノ・フェンティスタで最も広大なウェントゥス大陸の最奥に位置する実に長閑な国だ。国の玄関と国境を担う港町はあるものの、そこから先は常時豪風の吹き荒れる広大な牧草地帯が延々とが続いており列車(トラン)を利用しなければ王都である風樹の都までの道程は極めて困難だ。
 先の内乱で災過に遭い酷く荒れた国々の中でも、この国だけが復興に向けて力強く立ち上がった。その殆どが破壊されてしまった路線を逸早く修復した上で港を開放し、船舶の出這入り制限を解き、更に内乱による難民を無条件で受け入れる体制を整えたという。

「着いたらまず難民手続きを踏んで、どんな事をしてでもこの国の国王に会わせてもらわねば。そして…」

「パパ……あのね。スゥ、まだねむい…」

「ああ、そうだね。着いたら起こしてあげるからまだ眠っていなさい」

「うん」

 優しく髪を撫でるとスズランは安心しきってアスセナスの腕の中で再度瞼を下ろす。
 無理も無かった。二人は満足な休養を殆ど取れていない。