《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

　アスセナスが鋭く言葉を返すと、今度はさも正しい事を行なっているかの様に大袈裟な口調で話し始める。

「なんと。騙すだなんてヒト聞きの悪い…。私はただ離ればなれになってしまった家族に救済の手を、と思いましてねぇ」

「救済？　どの口が…！　お前たちの悪行にどれだけ多くの民と家族が引き裂かれ、犠牲になったか……お前に家族の温もりが分かるものか！」

　アスセナスは怒りに満ちた瞳を黒いフードの中の闇へと向けた。

「へえ、貴方は随分と失礼なヒトですねぇ。私にも愛する家族位おりましたよ？　確か…、娘だったか息子だったか。はて、もう忘れてしまいましたけど」

「っ…なんて愚劣な…！」

「……もういいです。ここまで物分りの悪い方だとは思いませんでしたよ。ならば力を行使するまで。大人しく娘を寄越せば良いものを…。実に残念です」

　男は毒気のある鋭い声でそう言うなり頭上に腕をのばし陣を描く。

「っ！？」

「悪く、思わないで下さいね…？」

　そして掌から禍々しい黒い球体を生み出し、それをアスセナス目掛けて放った。差程威力がある様には見えないそれはゆっくりとアスセナスに近付いてくる。

「何をっ…まさか、禁術…ぐ、ああぁ…！！」

　闇を凝縮した様な球体は接触した途端、全身へ這う様に拡がり一瞬の内に無数の切傷を生み出す。