《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

「っやめろって! スズ!! 頼むからっ…」

「セィシェル、いつもわがまま言って甘えてばっかりでごめんね。今までわたしのことを守ってくれてありがとう。マスターにもそう伝えて……」

 哀願するセィシェルに躊躇いなく笑顔を残すと、スズランは意を決して裂け目に飛び込んだ。
 
 途端に空間が、自分自身が、全てが黒暗に呑み込まれ囚われてゆく。酷く冷たい空気が肌を切り付ける。気が遠くなる様な痛みが身体中に走り抜け、声も出せない。

「っ…!!」

 傍らで、この恐ろしい空間に何故か既視感を覚えた。しかしそれも一瞬のうちに痛みで掻き消される。

(……ほんの少しでもいい、わたしも…、ライアの役にたちたいの……でも、本当は…)

 本当はもう一度会いたかった。
 身分が違っていても、許されない想いでも。

(ちゃんと…、伝えたかったな……)

 薄れゆく意識の中何とかその名を口にした。

「……ライア…」

「───駄目だ。スズラン…」

「っ…!?」

 すぐ近くでライアの声がする。
 そんな筈がない。先程と同様、空耳に違いない。それでも無意識のうちに声がした方へと腕を伸ばした。次の瞬間、スズランの手首が熱い何かに掴まれる。そのまま力強く引き寄せられて暖かな腕に抱え込まれた。