《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

「っ、いたぁ……」

 スズランは痛みに耐えながら漸く上半身を起こした。重心を失って前のめりに転倒したのか、咄嗟に受身を取ったつもりだが、膝と掌の内側を擦りむいていた。激しい雨に流されるのかそれほど出血は気にならない。急いで立ち上がり、四肢の安否を確認する。

「んん、このくらい平気…!」

 雨で濡れてしまっている為、既に全身どろどろだ。それでも気が逸り、スズランの足は止まらなかった。

 ライアに会いに行く。
 会って想いを伝える───。

 言葉には出来なかったが、この二つの強い気持ちがスズランを前進させていた。
 思っていたよりもペンディ地区は整備されており、街灯も多く脆い石階段などは補強されている。とは言え慣れない地形に何度か転倒しかけては、やっとの事で旧市街へと辿り着く事が出来た。
 城下の街とは異なり、古く重厚感のある建物が建ち並ぶ旧市街。道幅も狭く、建物との間の細い路地からは度々人の気配が感じられる。

「っ…もうすぐ列車(トラン)の高架橋…。そこをこえた所のちいさな酒場(バル)にライアがいるはず……」
(今更だけど、急に訪ねたら変に思われるかな…。でも元々良く思われてないんだからこの気持ちだけ伝えて、すぐに帰ろう…)