《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

 初めて見る夜の街。
 城下の街よりも華やかな街灯や店が建ち並ぶ魅惑的な通りに目を見張る。往来は多めだが、やはり未成年者の女性は一人も見当たらない。外出禁止令が出ている為当然だ。しかし、人々の目には映っていないのか誰もスズランを咎めない。それどころか素通りして行く。普段であれば珍しい容姿に好奇の目を向けられるが今はそれも無い。

「っ…すごい。ハリさんがかけてくれた煌像術(ルキュアス)のおかげなのかな?」

 ハリの施した煌像術(ルキュアス)は余程の熟練者や見破る事に長けた者でない限り、他者からの目に止まらなくなる。見えなくなった訳では無いが〝取るに足らない物〟として人々の興味から削がれるのだ。身体の周りに張った薄い光の膜が乱反射を繰り返し、注意を逸らして極限まで気配を抑える事が出来る。
 如何様な煌像術(ルキュアス)なのかは不確かだが旧市街までの道筋が手に取る様に分かった。その導きに従い商店街とは逆方向に足を進めるスズラン。住宅街を抜けて緩やかに下って行くと、坂と階段の街と呼ばれるペンディ地区に差し掛かる。
 ここを下れば旧市街に辿り着くのだが……。

「ここを通り抜けないと…」

 闇夜の旧市街へ誘い込むかの如くひっそりと口を開けているペンディ地区。