《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

　悲痛を湛えたその笑顔に心がズキンと痛む。

「分かった…。じゃあ本当に今日で最後にするから」

　ライアは耳元でそう囁きながら繋いでいない片方の手でスズランの頬を包み込む。
　瞼(まぶた)の上へ暖かい唇がそっと触れ、離れた。
　
「涙が、止まるおまじない……」

「…っ」（っ！？）

　スズランは耳を疑った。

　〝涙が止まるおまじない〟

　確かにそう言った。
　何故ライアがを知っているのだろうか。偶然そう言っただけなのか。
　何故なら、このおまじないは……。

（なんで……ライアが知ってるの？）

　スズランは言葉を失ったままライアをみつめ返す。セィシェルも同様に茫然とその様子を眺めていた。その僅かな静寂を破ったのはライアの一声だった。

「……おい！　セィシェル。頼みがある」

「なっ、なんだよ！」

「スズランを早く店の中に連れて行ってくれ。そしてマスターを呼んで来てほしい」

　スズランの手を強く握り返し、セィシェルに頭を下げるライア。その手のぬくもりからライアの切実な気持ちが伝わって来る。
　
「何なんだいきなり！　言われなくてもそうするし！　それと親父となに話そうってんだよ……親父だって店があるから、連れてくるなんて…」