《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

　セィシェルの発言を頑なに否定する。

「違わないだろ！　……だったら、なんで最近笑わなくなった？　スズが好きなのはこいつだろ…っ俺の気持ちは迷惑なんだろ！？　でも……それでも構わない！　俺はお前が好きなんだ！！　だからっっ」

　セィシェルの想いを迷惑と感じた事は無い。しかし、ここでライアへの気持ちを認めてしまえば結局そういう事になってしまうのだろうか。
　一度整理したはずの気持ちがぐちゃぐちゃに乱れてゆく。

「───待ってくれ、話がよく見えない。それに今は緊急事態って言っただろう！　とりあえず店の中に入って話を聞いて…」

「……帰って…！」

　土砂降りの中で小さく呟く。
　意を決してライアの顔を見上げる。涙で濡れた頬が更に雨で濡らされ、同時に心も冷やしてゆく。

「スズラ…」

「帰ってよ！　あなたに出すお酒は一滴もないの！　もう、店に来ないでくださいっ…」

　口にした傍から後悔した───
　一度口から出た言葉は取り消せないのに。

「おいスズ、いいのかよ……」

　スズランの頑なな態度にセィシェルが念を押してくるが、既にいいも悪いも無い。
　そんな中ライアはスズランから瞳を逸らさずにこりと微笑んだ。