《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

「悪いけど嫌でも我慢してくれ。今この手を離す事は出来ない! 緊急事態なんだ、マスターとスズランに大事な話がある。頼むから俺と一緒に来てほしい……」

 ライアは瞳を合わせたまま丁寧に、ゆっくりとそう口にした。

「緊急、事態…?」

「そう、緊急事態なんだ…」

 ライアの深い青の瞳が真剣に語る。
 その瞳に心の奥があばかれてしまいそうだ。
 しかし一度瞳が合うと、少しでも長くその瞳に映っていたくて逸らす事は出来なかった。

 見つめあったまま暫しの沈黙が訪れる。
 その間、容赦なく二人の身体に降り注ぐ冷たい雨……。

「スズ!!」

 ほぼ叫びの様な声に沈黙が破られる。
 セィシェルが血相を変えて裏口から飛び出してきたのだ。

「…!」

「……セィシェル」

 二人の間に弾丸の如くセィシェルが割込んでくる。

「何してんだよ、スズ! 早くそいつから離れろ!! おい、あんた! スズからその手を離せっ!」

「っ…嫌だ。それは出来ない!!」

「っな!? 大体何なんだよあんた! 最近ずっと俺たちの周りをうろつきやがって…。はっきり言って目障りなんだよ! これ以上スズに手出ししようってんなら容赦しない」