《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

 とてつもなく長い時間眠っていた様な感覚もあれば、たった数分だった様な気もする。加えていつもの夢を見た時の様な気だるさもある。

「うん? ほんの数分だけども、今日はわたしもいるからスズはこのまま休んでいいぞ?」

「え! わたしなら平気、だからお店に…っあ」

 勢いよく長椅子(カウチ)から身を起こすも、やはりまだ頭がくらくらとした。

「ほら、全然ダメじゃあない……全く。大丈夫、スズがいない時にあの彼が来たらちゃんと教えてあげるから! それが心配なんでしょう?」

「そ、そんな事…!」

「あるでしょ」

 ソニャにだけは例の気持ちを見透かされている様で、スズランは素直にこくりと頷いた。

「あのね。ソニャちゃん、わたし……変なの。今になってあの人の事が気になって、眠れないの。きっとあの人にとって、ただの酒場(バル)の店員で、まだまだ子供で……」

 上手く言い表せない辿々しいスズランの主張を、優しく頷きながら聞き手に徹してくれるソニャ。

「わたしなんか相手にされないってわかってるの……それにわたし、あの人の事思いきり無視しちゃったから……き、嫌われてるって思うと苦しくなって…っ…」

「やっとちゃんと自覚したんだ」

「え?」

「スズはあの彼の事が好きなんでしょう?」

 自覚はしていたが、この想いを認めてしまうのが怖かった。だから誰にも知られない様に心の奥に閉じ込めた筈なのに。