《完結》アーサ王子の君影草 中巻 ~幻夢の中に消えた白き花~

「よく、分からない…」

 セィシェルにそう答えたが本当は違う。自覚したばかりだがスズランの心は既にライアに捕らわれていた。しかし本当の気持ちを言えなかった。何故ならこの気持ちには行き場がないからだ。既に嫌われている上に、歳下は好みではないと宣言されたのだ。
 どんなに想ってもライア本人には届かない。

「心の奥に閉まっておくから……」

 誰にも言わずに、密かに想うならば許されるだろう。スズランにとって初めての恋する気持ち。そう簡単に捨てる事など出来なかった。
 ふと手を伸ばすとベッドの上に置かれている本が目に入った。ソニャから借りた恋愛小説だ。おもむろに起き上がり本を手に取ると、スズランは真剣に物語を読み進めていった。
 色恋事には疎いが、読み始めてすぐに物語にのめり込んだ。
 強気で活発な主人公(ヒロイン)が見せる乙女心と甘い恋愛模様に顔を赤らめたり、時には心を痛めたりとスズランは表情をくるくると変えた。


「はああ……。すごく素敵だったぁ。最後はちゃんとふたりが幸せになれて良かったあ……」

 最後の(ページ)まで一気に読み進め、読み終わる頃にはすっかりと物語に魅了されていた。ソニャがこれを勧めてくる理由が分かった気がする。