夕方の口づけの事を言っているのだろうが、何となく気まずいスズランは扉を向こうのセィシェルに出来るだけ明るく言葉を返した。
「っ…俺は……いや、何でもねえ」
「セィシェル…?」
「もう寝るんだろ? じゃあな…」
「ま、待って!」
思わずセィシェルを呼び止めた。急いでベッドから立ち上がり部屋の扉を細く開いて顔を出す。立ち止まったまま振り向かないセィシェルの背中を見つめた。
「スズ……やっぱり好きなのか? あいつの事」
「っ…そんな事……ないけど」
「けど…?」
「……ごめんなさい。本当はよく、分からないの」
スズランが曖昧に答えると漸く振り向いたセィシェルだが、何処か悲しげな表情をしていた。それは酷く傷ついた様な、痛みを耐える様な顔だった。
「……また明日な」
そう言うとセィシェルは不意をついてスズランの頬に口づけをした。
「っ!?」
「挨拶なんだろ、これ。じゃあおやすみの挨拶な」
「う、うん。おやすみなさい」
何か違う様な気もするがセィシェルが薄らと微笑んだので気にしない事にした。
セィシェルを見送り、部屋に戻るとスズランはベッドに倒れ込んで羽入りの座蒲団に顔を埋める。
「っ…俺は……いや、何でもねえ」
「セィシェル…?」
「もう寝るんだろ? じゃあな…」
「ま、待って!」
思わずセィシェルを呼び止めた。急いでベッドから立ち上がり部屋の扉を細く開いて顔を出す。立ち止まったまま振り向かないセィシェルの背中を見つめた。
「スズ……やっぱり好きなのか? あいつの事」
「っ…そんな事……ないけど」
「けど…?」
「……ごめんなさい。本当はよく、分からないの」
スズランが曖昧に答えると漸く振り向いたセィシェルだが、何処か悲しげな表情をしていた。それは酷く傷ついた様な、痛みを耐える様な顔だった。
「……また明日な」
そう言うとセィシェルは不意をついてスズランの頬に口づけをした。
「っ!?」
「挨拶なんだろ、これ。じゃあおやすみの挨拶な」
「う、うん。おやすみなさい」
何か違う様な気もするがセィシェルが薄らと微笑んだので気にしない事にした。
セィシェルを見送り、部屋に戻るとスズランはベッドに倒れ込んで羽入りの座蒲団に顔を埋める。



