「どうしようか、暇になったね」
園子は伊織を見る。
伊織は腕を組んで考えるが思い付かない。
とりあえずその場に座って待つことにした。
そのときだった ガタッ とホラーめいた音がした。
音がした方向を見る。
里花たちがいる奥の部屋ではなくその反対にある部屋からだった。
「えっと…どちら様ですか?」
部屋の扉の前に1人の女性がポツリと立っていた。
この村に知人はいないため誰か分からない。
黄緑色の髪なため緑の民であることは変わらないのだが。
「……してやる…」
「……え?」
女性は何かを言っているが声が小さすぎて分からない。
すると女性は急に走り出した。
「殺してやるぅぅう!!!!」
女性はそう言った。さっき言っていた言葉はこれだろう。
「アハハハハハハ」
女性は殺気を撒き散らしていたが急に笑い出した。
「きゃーーー!!!」
園子はその女性が普通でないことと何か壊れたように笑う表情でこちらに来たため悲鳴をあげた。
「風よ、切り刻めぇ!」
女性が唱詠したとたんに魔法陣が浮かび上がった。色は緑色だ。
「風よ、我を守れ!」
伊織はとっさに風の壁を作り防ぐ。
風の刃と風の壁がぶつかり凄まじい風が周りに吹く。
「雨よ、突き刺せぇ!」
女性はすぐさま魔法を繰り出す。
次は雨の攻撃だ。
「やばっ」
風の壁を作った後すぐには魔法が使えない伊織は焦る。
「風よ、我を守れ!」
園子が咄嗟に作り出したが恐怖のあまり魔法が不安定な状態で発動させたため全てを防ぐことができなかった。
「園姉!」
伊織がいる場所は防ぐことが出来たが自分に向かってくる雨の矢はまだ残っている。
もうだめだと思って目をつむる。
「闇よ…黒壁 (こくへき)」
男の声がしたと思った所で矢と壁のぶつかる音がしたため園子は目を開ける。
目の前には黒のローブを着た人がいた。
さっきの声が目の前の人だとすると男だ。
足元には濃い紫色の魔法陣、男の前には黒い壁。
状況はなんとなく分かった園子だが恐怖が消えた訳ではない。
「殺してやる!」
女性は薬物で狂った人のように何回もこの言葉を繰り返す。
「あれは…」
そこで男が呟いた。
その声に懐かしさを感じた園子だが今はそんなことを考えている場合ではない。
「殺烈(さつれつ)せよ、アグルビア!」
女性はまた魔法を使う。
足元に浮かぶ魔法陣の色は鮮血色だ。
女性の目の前にも同じ色の魔法陣があった。
そして、その魔法陣から鮮血色の手のようなものが出てきた。
それはくねくねと所々曲がっている。
しかし、男を見つけるや襲いかかってきた。
手から剣のように細く切れ味の良さそうな刃に変わった。
男は無言で手を前に出した。
それと同時に5つの紫色の魔法陣が現れた。
「セット」
そう呟くと、魔法陣から刀が現れた。
しかも普通の刀ではない。
刀にはいくつもの札が貼られていた。
いかにも呪いを持った刀が札で封印されているようだ。
その刀はまっすぐに鮮血色の刃に突き刺す。
そして札が闇色に光り鮮血色の刃が砕ける。
「水よ、彼を包め (かをつつめ)」
男はすぐさま違う魔法を放つ。
女性の足元に青色の魔法陣が現れ、女性を包むように水の壁ができていく。
これで女性は身動きができない。
そのスムーズな動きに園子と伊織は見とれていた。


