「――あたしに触らないでっ」
噴き出しかけた私の耳に、いやにクリアに届いた、聞き覚えのある声。
この声……。
あそこの路地からだ。
私だけでなく、隣の桃太郎も、近くの細い路地を捉えていた。
「桃太郎も聞こえたの?」
「お前もか」
「耳だけはいいんだね」
「だけはってなんだよ、だけはって」
私と桃太郎は目を合わせて、軽く顔を縦に振ったのを合図に、どちらともなく近くの路地へ駆けていった。
何も起こらないのが1番なのに、どうしてこうも、繁華街はトラブルが発生しやすいんだろう。永遠の謎だ。
少しは真面目に生きたらどう?
悪い子な私が言えたことじゃないけど。
「俺達と一緒に遊ぼうぜ?」
「嫌だって言ってるでしょ?」
「つれねぇなー。楽しませてやれる自信あんのに」
薄暗さに塗れた路地では、1人の女の子が不良2人にナンパされていた。



