BAD & BAD【Ⅱ】





善兄に逃げる気配は、ない。


おそらく、覚悟があるのだろう。



終わりを受け入れる覚悟が。




「善兄」



世界で1番嫌いな名前を、砦が崩される前に餞別のような形で、呼んであげた。


善兄の瞼が、閉ざされる。




「これで、終わりにしよう」



代わりに薄く開かれた唇の隙間に、そうっと睡眠薬を押し込んだ。


ごくり、と飲み込んだのは、善兄の意志だった。




善兄が眠りに落ちたのは、それからすぐのことだった。





何もかも、偶然だった。



私の手が傷だらけになったのも、善兄が戸惑ったのも、善兄に私の憎しみが伝わったのも。


偶然が、幸運を連れてきてくれたおかげで、長く侵されていた恐怖は終わった。





ようやく、終わったんだ。