善兄が私の言葉に首を縦に振ってくれたのは、予想外の出来事にパニクって、いつものゆとりが欠如していたからなんだろうな。
もしも善兄が今も悪意で満ちていたら、こんな静かな空気は流れなかった。
「幸珀」
「なに?」
「傷つけて、ごめんね」
その謝罪が、監禁や先程までの喧嘩に対してではないことは、すぐに汲み取れた。
善兄が謝ったのは、この血で溢れた手のひらにだけ。
善兄らしいといえば、らしいのかもしれない。
本当は全部謝ってほしいけど、やめておいた。心にもない懺悔をされたって、お互いに気分は良くならない。
盲目的な謝罪に何も言い返さずに、隠し持っていた物を見せびらかした。
「そ、れを、なんで幸珀が……?」
隠し持っていた物、それは、白の四角いケースに入った睡眠薬。
私を監禁するために善兄が使った、水なしで飲める、あの即効性の睡眠薬だ。
多分、凛に飲ませていた物とはまた別の種類の物だろう。
「後頭部を壁にぶつけた時に、サッと掏ったの」
善兄のことだろうから、余分に持ってるだろうと推測してね。
「そう、か」
「驚かないんだね」
「幸珀なら、それくらい簡単にできちゃうって、知ってるから」
「わあー、なんだか言い方がきもーい」
棒読みで罵倒しながら、ケースから睡眠薬を1粒取り出した。



