BAD & BAD【Ⅱ】





善兄が私の言葉に首を縦に振ってくれたのは、予想外の出来事にパニクって、いつものゆとりが欠如していたからなんだろうな。


もしも善兄が今も悪意で満ちていたら、こんな静かな空気は流れなかった。




「幸珀」


「なに?」


「傷つけて、ごめんね」



その謝罪が、監禁や先程までの喧嘩に対してではないことは、すぐに汲み取れた。


善兄が謝ったのは、この血で溢れた手のひらにだけ。




善兄らしいといえば、らしいのかもしれない。


本当は全部謝ってほしいけど、やめておいた。心にもない懺悔をされたって、お互いに気分は良くならない。



盲目的な謝罪に何も言い返さずに、隠し持っていた物を見せびらかした。



「そ、れを、なんで幸珀が……?」



隠し持っていた物、それは、白の四角いケースに入った睡眠薬。



私を監禁するために善兄が使った、水なしで飲める、あの即効性の睡眠薬だ。


多分、凛に飲ませていた物とはまた別の種類の物だろう。



「後頭部を壁にぶつけた時に、サッと掏ったの」



善兄のことだろうから、余分に持ってるだろうと推測してね。




「そう、か」


「驚かないんだね」


「幸珀なら、それくらい簡単にできちゃうって、知ってるから」


「わあー、なんだか言い方がきもーい」




棒読みで罵倒しながら、ケースから睡眠薬を1粒取り出した。