転倒こそしなかったものの、ようやく善兄にちゃんとしたダメージを与えられた。
善兄は若干咳き込みながら、チラリと私を一見する。
「相変わらず、幸珀はすごいね」
同じ手に二度騙されるほど、善兄は阿呆じゃない。
もう、だるまさんがころんだ戦法は効かない。
一瞬の隙を突けただけ、ラッキーだった。
「幸珀の発想力には、毎回驚かせるよ」
「よそ見してんじゃねぇぞ!」
ゆるく微笑む善兄に、朔が勢いに乗って突撃していった。
師匠と凛も、防御から攻めに転換し、善兄を挟み撃ちする。
しかし、善兄がたった一撃で弱まるわけがなく、私に近づくなとでも脅すように、ナイフを振り回した。
善兄のテリトリーに中途半端に踏み入れれば、首が飛ぶ。
それを知っていて、3人はなかなか善兄との距離を詰められなかった。
……そう、善兄はずっと、3人を殺そうとしながら、誰もステージに上がらせないよう計算して闘っていたのだ。
そのため、善兄を倒さなければ、私を助けられない。
つまり、監禁は終わらない。
まあ、この鎖が外れてしまえば善兄の計算も意味を失くすんだけど、そう簡単に外せたら苦労はしない。



