凛は間一髪でナイフを回避したが、ナイフだけじゃなく、殴ったり蹴ったりもしてくる善兄を相手に安心できる場面はひとつもない。
どこにいても、ここは全て善兄の領域。
瞬きも油断も、命取りだ。
「くそっ」
朔は舌打ちをして、膨らむ苛立ちをごまかす。
3人とも善兄に手も足も出せず、避けるので精一杯な様子だった。
善兄の動きが速すぎて、攻撃に転じられないのだ。
皆、もうボロボロだ。
顔も腕も足も、傷だらけ。
血を垂らしながら、反吐を吐きながら、それでも屈しずに闘ってる。
「はぁ、はぁ……」
あんなに息が上がってる凛を、初めて見る。
神経をすり減らしながら善兄を目で追っているせいで、精神的にも体力的にも限界が来てるんだ。
私は、捕まったまま、何もできてない。
右手を鎖から取ろうと頑張ってはいるけど、変に絡まっていて、なかなか取れない。
引っかかっている部分さえ外せれば、なんとかなりそうなのに。



