私を縛り付ける物がなくなっても、善兄は悠然としていた。
焦りが、消えてくれない。
決して暑くはないのに、背中に汗が流れていった。
『鎖が壊せても、逃げれはしないよ』
善兄はおもむろに、前の方の扉の前に立ちふさがった。
……くそ、やられた。
この教室には、前と後ろに1つずつ扉がある。後ろの方には机が山積みされていて、扉の1つは使えない。そうなると、前の方の扉からしか外に出られない。
その、たった1つの出口を塞がれた。
鎖が外れて喜んでる場合じゃなかった。
『抵抗しないで、僕と一緒にいようよ』
『断る!』
『幸珀は強情だなあ』
どうする、私。
どうやって逃げる?
善兄を出し抜いて……いや無理だ。なんとかして隙を作れたって、扉を通れはしないだろう。
善兄の強さは、身をもって知っている。中途半端な攻撃を仕掛けても、返り討ちにあうだけだ。



