頭に血を上らせた朔を、真っ直ぐ見据える。
焦ってるなんて、朔らしくないよ?
「ま、まさか、兄貴が……」
「朔!!」
パンッ、と朔の両頬を強めに叩いた。
「っ、……こ、はく」
どう?目ぇ覚めた?
混乱しないでよ。私は、この通り、怪我ひとつなく無事に脱出できた。
今心配されても、今更感半端ないよ。
「縛られてなかったし、ただ1人きりにさせられただけだったから、大丈夫だよ」
「兄貴が、やったんじゃ、ねぇのか?」
「違うよ。善兄にやられたんだったら、こんなに平然としてられないよ」
私の手のひらから朔の頬へ、熱が伝染していく。
たどたどしく、ゆっくりと、肩から朔の手が離れていった。
昼休みに空き教室に戻ってから何も話さなかった私も、ほんの少し悪かったね。
話さなくてもいいかな、って楽観視してたんだ。終わったことだから。
「本当に、大丈夫なんだな……?」
「本当に本当に、大丈夫だよ」
優しく念を押したら、ようやく安堵の息が漏らされた。



