「あたしはとっくに、幸珀先輩のことを尊敬していますよ」
「ほんと!?いや~、照れるなぁ」
「なあ、お世辞って言葉知ってるか?」
「剛てめぇ、どういう意味だこら」
それくらい知ってるわ。
でも、お世辞だってなんだって、褒められたらテンション上がるもんでしょ?
私達のバカな会話に、ふふっと上品に笑みをこぼした唄子ちゃんの双眼は、明らかに笑ってはいなかった。
そして、弘也とたかやんが唄子ちゃんのいる空間に精神的に耐えられなくなったのか、不機嫌オーラをまき散らしながら教室に向かって歩き出した。
私も唄子ちゃんに一言言って、剛と廊下を進んでいく。
1人残された唄子ちゃんは、すっ、と顔面に貼り付けていた笑顔を崩した。
「尊敬していますよ、幸珀先輩のお気楽でお子様なところを」
金髪の毛先を指でクルクルいじりながら、誰にも聞き取れない声量で甘く呟かれた皮肉。
浮かび上がった唄子ちゃんの悪い表情を、私は知る由もない。



