……もう、誰だっていいさ。
幸珀のそばから離れろ。
そう、確かに叫んだはず、なのに。
唇が動くだけで、声は空を切って、何も伝えられない。
必死に声を紡ごうとするけれど、やはり一音たりとも喉を通らなかった。
なんで、なんで、なんで!
なんでなんだよ……っ!
俺が足掻いてる間に、幸珀はどんどん鎖で縛られていく。
誰だか知らねぇが、汚い手で幸珀に触んじゃねぇよ。
幸珀を、返せ!!
何度試しても、声は出なかった。
ふたつの影が、幸珀を覆っていく。
まるで、幸珀を丸ごと飲み込んでしまうみたいに。
やめろ。
やめてくれ。
幸珀を、連れて行くな。
悔しくて、悲しくて、憎くて、腹立たしくて。
淀んだ感情が混沌とした心臓を抑えながら、無我夢中で手を伸ばした。
だけど、手が幸珀に届く前に、幸珀はふたつの影に食べられて、闇と化して消えてしまった。
最後に、幸珀に『凛』と名前を呼ばれた気がした。