「母さん、母さん!」
「ん……」
師匠がソファの前に座りながら、京ママの体を揺らす。
ゆっくりと意識を取り戻していった京ママは、ハッとして上半身を起こした。
「いつの間に、こんなところで寝ちゃったのかしら……」
「ついさっき眠りについたばかりだよ」
「そう……って、部屋がぐちゃぐちゃじゃない!何かあったの!?」
「あ、そ、それは……」
さっきまで京ママが暴れていた形跡が大きく残っているキッチン前を目撃して、京ママは驚愕した。
本当に、記憶がないんだ。
冷徹な形相で椅子を振り回した人と、同一人物だとは到底思えないくらい、今の京ママは温度のある顔をしている。
「じ、実は、……っ」
「……京、くん?」
グッと握り締められた師匠の拳に気づいて、ぎこちなく師匠の名前を呟く。
いつもと違う、と感じ取ったのだろう。
京ママの周りだけに、陰湿な違和感が渦巻いていた。



