椅子の背もたれにかけていた、京ママの髪を拭いたタオルが、ひらりとなびやかに師匠と京ママの間に運ばれる。
助けに行きたい。
でも、我慢だ。我慢しろ、自分!
ここで動いたら、せっかくの作戦が無駄になっちゃう。
「いたた……」
「……っ」
「か、母さん、やめ……っ!」
さっき倒した椅子を持ち上げた京ママに、師匠の目が丸くなる。
振り下ろされた椅子の脚から、間一髪のところで避けられた。
椅子の脚が思い切り床にぶつかり、床に小さな跡が残る。
ああやって、傷がついていくんだ。
無性に、悲しくなった。
「もうやめてよ!」
いくら叫んでも、やはり京ママには届かない。
このマンションは全室防音対策ばっちりらしく、隣の家や、上や下の階の人には京ママの暴走は気づかれない。



