BAD & BAD【Ⅱ】





椅子の背もたれにかけていた、京ママの髪を拭いたタオルが、ひらりとなびやかに師匠と京ママの間に運ばれる。



助けに行きたい。

でも、我慢だ。我慢しろ、自分!


ここで動いたら、せっかくの作戦が無駄になっちゃう。




「いたた……」


「……っ」


「か、母さん、やめ……っ!」



さっき倒した椅子を持ち上げた京ママに、師匠の目が丸くなる。



振り下ろされた椅子の脚から、間一髪のところで避けられた。


椅子の脚が思い切り床にぶつかり、床に小さな跡が残る。




ああやって、傷がついていくんだ。


無性に、悲しくなった。




「もうやめてよ!」



いくら叫んでも、やはり京ママには届かない。


このマンションは全室防音対策ばっちりらしく、隣の家や、上や下の階の人には京ママの暴走は気づかれない。