BAD & BAD【Ⅱ】





京ママの顔つきがまるで別人みたいに凍てついていて、思わず息を呑んだ。


怒りと苦しさでどうにかなってしまいそうな、無情で非情な顔つき。



「か、母さん……!」


「……っ」



必死に呼びかける師匠にイラつきを覚えたように、乱暴に椅子を倒される。



続けてグラスと日本酒の瓶を床に落とそうとしたが、師匠が咄嗟にキャッチしたおかげで割れずに済んだ。

ナイスです、師匠!



師匠はグラスと日本酒の瓶をキッチンに避難させてから、京ママの肩を掴んだ。



「母さん、やめてよ!」



何を言われても、京ママは口を開かなかった。



酒乱の人って、よく暴言を言ったりするらしいのに、京ママは言わないんだ。


なんでなんだろう。

記憶のない酒乱状態になってもなお、息子への愛情を忘れていないから?




「母さん!……うわっ」



京ママは鬱陶しそうに、師匠を突き放した。


その拍子に、さっきまで自分が座っていた椅子に、背中をぶつけてしまう。