キッチンに潜んでいる私達は、誰1人として、温もりを感じていなかった。
あそこだけを切り取ったら、涙腺崩壊確実の感動シーンだ。
だけど現実は意地悪で、それが理だとでも教えるかのように、裏がある。
私達は、知っている。
師匠がどんな気持ちで、どんな想いで、ああ伝えたのかを。
「もうっ、嬉しいこと言ってくれちゃって!」
「わわっ」
京ママは頬を赤らめながら、師匠の頭をぐしゃぐしゃっと撫で回した。
嬉しそうだなぁ。
当たり前か。息子に自慢だと褒められて、喜ばない親はいない。
「京くん、ありがとう」
“いつか”の願望を夢見続けながら、秘密を忍ばせていたはずなのに。
師匠は一切、表側に裏側をほのめかさない。
慣れて、しまったのだろう。
……私、勘違いしてた。
師匠の覚悟は、思っていた以上にあきらめ悪くて、しぶとい。
恐れ入ったよ。
これだから、師匠の弟子はやめられないんだ。



