今日もお酒を飲むかは、京ママの気分次第。
もし飲まないようなら、師匠になんとかしてもらって、飲ませる。そうしなければ、作戦が成り立たない。
「あれ?これって……」
「あ、見つけちゃった?」
「あの、師匠。これって、もしかして……」
「……うん、そうだよ」
不意に視界の隅に映った、壁のへこみ。
これは、京ママが暴れた証だ。
よく見ないと気づかない程度で目立ちはしないけど、この綺麗な家にはそぐわない。
「この部屋のいたるところにあるんだよ、こういう“跡”が」
師匠は本当に、独りで秘密を背負ってきたんだな。背負うことしか、できなかったんだろうな。
見た目や第一印象だけでは、そうそう見破れない。
それが、複雑で厄介で窮屈な、秘密というものだ。
「京ママは、これに気づいてるんですか?」
「気づいてないかもね。気づいてたら、とっくに修繕させてるだろうし」
あは、と不格好に笑った師匠がこぼした強がりを、私は見て見ぬフリしてあげた。



