BAD & BAD【Ⅱ】





今日もお酒を飲むかは、京ママの気分次第。


もし飲まないようなら、師匠になんとかしてもらって、飲ませる。そうしなければ、作戦が成り立たない。




「あれ?これって……」


「あ、見つけちゃった?」


「あの、師匠。これって、もしかして……」


「……うん、そうだよ」




不意に視界の隅に映った、壁のへこみ。


これは、京ママが暴れた証だ。



よく見ないと気づかない程度で目立ちはしないけど、この綺麗な家にはそぐわない。



「この部屋のいたるところにあるんだよ、こういう“跡”が」



師匠は本当に、独りで秘密を背負ってきたんだな。背負うことしか、できなかったんだろうな。



見た目や第一印象だけでは、そうそう見破れない。


それが、複雑で厄介で窮屈な、秘密というものだ。




「京ママは、これに気づいてるんですか?」


「気づいてないかもね。気づいてたら、とっくに修繕させてるだろうし」



あは、と不格好に笑った師匠がこぼした強がりを、私は見て見ぬフリしてあげた。