「母さんが飲酒した日は必ず、ストレス発散するみたいに暴力を振るわれる。無意識なのかわかんないけど、服で隠れて見えないところにだけ傷を作るんだ」
「そのことを、京の母親は自覚してんのか?」
剛が問いかけると、師匠はふるふると頭を振った。
「暴れている間の記憶は、母さんにはないんだ。次の日起きたら、何事もなかったかのように、元の母さんに戻ってる」
自覚症状のない、酒乱か。
師匠の傷痕を踏まえれば、どうやら京のお母さんは相当激しくなるタイプのようだ。
……そっか。
お母さんの変貌を目の当たりにしていたから、師匠はお酒を飲まずに、オレンジジュースばかり飲んでいたんだ。
ゲームばかりやっているくせに、元から力が強かったのも、お母さんの暴力が起因しているんだろう。
一度蓋を開けてみれば、こんなにもわかってくる。
今の師匠のほとんどの面に、お母さんの影が埋まっている。
厄介、だな。
何もかもが、今にも崩れてしまいそうだ。
「お酒さえ飲まなければ、母さんは優しいんだ。優しいから、きっと、自分を責める。だからどうしても、母さんにも……誰にもこのことを打ち明けられなかった」
師匠にとっては、秘密を隠す、ではなく、“いつか”の願望という概念。
それが、日常と化していた傷痕から、目を背けさせた。



