彼の冷徹な表情が、みるみる崩れていく。



朗らかにほころぶ条件は、1つ。



「幸珀!」


「うぎゃあああっ!!」



私に会えた時。

たったそれだけ。




「会いたかったよ」


「私は、あんたに……善【ゼン】兄に会いたくなかった!」



せっかく朔の影にしゃがんで隠れていたのに、ずる賢く背後から近寄ってきた彼——善兄に猛烈に抱きしめられてしまった。


ぞわぞわっと、背筋が寒くなる。




これを見てみろ。この、ふにゃふにゃにほぐれた善兄の笑顔を。懐いているレベルじゃない。



善兄は、たとえ何キロメートル離れていようが、視界に私を捉えればすぐ近寄ってきて触れてくる抱きつき魔なんだ。

気持ち悪いったらない。




「ああ、久し振りの幸珀だ」


「は・な・れ・ろ!!」


「相変わらず冷たいな、幸珀は。まあ、そんなところも好きなんだけど」


「私はあんたなんか嫌いだ!!」