「突然押しかけて悪い。
十羽のことについて聞きに来た」



俺を見つけて驚きに見開かれていた目は、十羽の名前が出た瞬間に鋭くなる。



「楓に話すことなんてない」



踵を返して、俺の前から去ろうとする千隼くん。



引き止めようと、俺は声をあげた。



「昨日まで十羽と会ってた」



その言葉に、千隼くんが立ち止まる。



「は……?」



振り返ったことによって露わになった千隼くんのぱっちりとした瞳が、限界まで見開かれていた。



「そんなことありえない。だって、十羽は、」



「頭がおかしいって思われても構わない。
でも、嘘はついてねぇよ。
たしかに十羽は俺に会いにきた」



千隼くんは自分を落ち着かせるように小さく息を吸って、そして俺をまた見上げた。



「とりあえず場所を変えるよ。
楓がこんなとこにいると、目立ってしょうがないから」