古(いにしえ)の時代。肋骨の一部が欠けた人間は、神かそれに近い存在として崇(あが)められていた。

彼らは皆、例外なく、人智を超えた力を有していた。

欠けた部分は男女によって異なり、女性は右脇腹の肋骨の一部が、男性は心臓部の肋骨の一部が、それぞれ欠けていた。

その影響か、男性は成長とともに心臓の肥大化が進むために長い寿命を持てず。

もって、二十五歳が限界だった。



欠けた肋骨。



この場には、この言い伝えの【肋骨の一部が欠けた人間 】がツキビトとその子孫のことを指していることを知らない者は誰もいない。

なにせ皆、月の都の一族の子孫か、それに関わる者なのだから。

「そんな……でも兎季矢くんは……」

「ええ。当初は俺も、ツキビトと恋に落ちた地球人の子孫なんだと信じて疑ってませんでした。けど、それは間違いだったんですよ」

「そんな……」

すなわち――

「本当は俺も、月の都の一族の子孫なんだ」

「じゃあトキくんは……」

「あと何年かしたら心臓の肥大化が限界に達して」

「この世から、いなくなっちゃうっていうの?」

《 マジかよ…… 》

「冗談でこんなこと言うか。――だけどこれでわかったろ? 俺と一緒になったところで、すぐそこに不幸が待っているんだ。あのまま別れていた方が、ルナ――じゃない、璃那には幸せだったんだよ」

「…………」

とうとう打ち明けた本当の理由によって、この場はまたしても重い沈黙で満たされる――

と、思っていたのに。

「…………呆れた」

蒼依のこの一言で、沈黙はすぐさま破られた。

「――え?」

次の瞬間には景色が変わり天地が逆転し、背中に強い衝撃を受けた。