温度も感覚もないわたしの左手を、百花がぎゅっと握り返した。


百花の手を引いて、来た道を歩いていく。




たとえ、この左腕がフツーじゃなくても、わたしはこの手を離さない。


百花の温もりがわからなくても、この手で百花と環くんへの想いを守っていく。



わたしは決して独りじゃない。


そばには、わたしを大事に思ってくれている人たちがいる。


だから、前に進むことを、恐れたりしない。




幾度となく迷い、悲しみ、後悔しながら、それでも幸せな“今”を紡いでいく。





「あっ、桜!」


不意に、百花が顔を上げて、空を指差した。



つられて、わたしも空を見上げる。



真っ青に塗られた空を泳ぐ、一枚の桜の花びら。


ひらりひらり、風にそよがれて、百花の足元に舞い落ちた。



はしゃぐ百花を見て、頬をほころばせる。