環くんが亡くなったとき、百花はまだ二歳だった。


そのため、百花はあまり環くんのことを覚えていない。



だから、わたしは百花によく思い出を語って聞かせた。


どんなことがあって、どんな言葉をくれて、どう生きたのか。


百花に伝えたかった。



あなたのお父さんは、すごくすごく、優しい人だったって。





「お父さんを綺麗にしてあげようね」


「うんっ!」



はりきる百花と協力して、墓石を水で洗い、墓石周辺の手入れをする。



ひととおり掃除を終えたあと、持ってきた白い花を供えて、線香をあげた。


お墓の前で手を合わせ、拝む。



左手の薬指につけてある、環くんからもらった結婚指輪が、太陽に反射してキラリと光った。