一瞬にして詰められた距離。眼前に迫った相島の整った顔。パキンと鳴った、チョコの割れる音。

「ん?今日はビターじゃねぇ。」
「っ…!」

 おかしい。相島に赤面するなんておかしい。おかしいけれど、それを言うなら相島の方がおかしい。自分が加えていたチョコをかじる、なんて。

「相島さん!?何やって…!」
「くれっつったじゃん。」
「そうだけど!なんで食べかけ…。」
「お前、この前俺が言ったこと、なかったことにしようとしてるだろ。」
「え?」
「避けてんの、バレバレなんだよ。まぁそれでも真面目に考えてくれてんのかなーとか思って見てたけど、今少し話しただけでお前、安心しきってんじゃねーよったく…。」
「いやだって、あの日の相島さん、おかしかったからっ…!」
「おかしくねーよ。つーかおかしいのお前だから。普通気付くだろ。」
「はい?気付くって何に?」
「…バカかよ。」
「バカですよ!仕事はできるけど人の気持ちなんて言われなきゃわかんないもん!」
「…開き直りやがった。」
「だ、だって…い、今のだって意味が…。」

 思い出すだけで顔が熱くなる。食べかけのものをシェアしたことがないわけでも、キスしたことがないわけでもない。抱きしめられたわけでもないのに、顔が熱い。恥ずかしくて目を逸らしてしまう。

「…なんで楽なのか、ちゃんと考えた?」
「え?」
「え、じゃねーよ。大体、先に地雷踏んだのはお前の方だからな。」
「じ、地雷…?」
「俺にバレてよかった。それってどういう意味だよ。俺も、人の気持ちなんて言われなきゃわかんねーってことにするわ。」
「…え、えっと…そ、それはそのまんまの意味で…。相島さんは私のそういうところに引かないでくれるし、仕事の愚痴も言えるし、ご飯も一緒に行けるし…なんていうか、一緒にいて楽っていうか…。」

 しどろもどろになりながらも、なんとか言葉を言い終えた。そして相島が口を開く。

「引かないっつーか、引くはずねーじゃん。むしろ可愛く見えるわ。我が目疑うくらい。」