「にが。」
「え?」
「なんかこれ、会社でもらったやつより苦くね?」
「あ…それカカオの含有量が多いやつ…だったかも。」
「あー…なるほどな。これは結構苦いな。」
「え、もしかしてまずかった…?」
「お前ほど苦いの無理ってわけじゃねーけど、すげー好きってわけでもねーから。」
「…隠れ甘党?」
「苦いか甘いかどちらかを選べと言われたら甘いのを選ぶ。」
「うわぁ意外な事実!」

 思いもよらぬ発見に嬉しくなって、紗弥の声のトーンは弾んだ。

「…お前ほど無理ってわけじゃねーからな。」
「ふふふー意外な弱点を見つけてしまった!」
「弱点じゃねーって!ばかか!」
「ばかだもーん!」

 酔っ払っていていつもよりもバカになっている。いつもの自分じゃない。でも、そんな自分を相島が許してくれることもわかっている。だからこそ。

「相島さんにバレてよかったなー…なんか楽だもん。」
「…っとに、お前はさー。なんで楽なのかとか少しは考えろ。」
「へ?」

 気が付くと、自分の家の前だ。なんだか今の相島の言葉で少しだけ目が覚めてしまった。

「…間抜けな顔してねーで、…って酔っぱらいに言っても意味ねーか。」
「酔っ払ってなんか…。」

 今は正直一瞬、酔いが覚めた。

「こっからは自分でちゃんと立てよ。んじゃーな。ちゃんと休めよ社畜猫かぶり女。」

 自分の身体から離れた温もり。頭の上におりてきた、一瞬の温み。
 相島が紗弥の方を振り返ることはなかった。

「…っ…何だ今の、相島さん…。」

 担がれたこともそうだが、最後の一瞬、頭を撫でられた。そんなことは今まで一度もなかったのに。